麻疹(はしか)罹患後の特効薬に関するインシリコ創薬
2026年、わが国では排除状態にある麻疹(はしか)の感染者が急増している。麻疹には特効薬がなく、通常はワクチン接種により免疫を獲得して予防することになるが、罹患した場合には、解熱鎮痛剤や輸液などによる対症療法を行いながら安静を保ち、自然回復を待つことになる。麻疹は空気感染するため、医療機関では感染拡大防止のため隔離管理が行われる。
筆者は早速、インシリコ創薬技術を用いてターゲットとなる麻疹ウイルスのタンパク質に着目し、標的タンパク質を対象に構造ベースのドッキングシミュレーションによるバーチャルスクリーニングを実施してみた。
標的タンパク質の立体構造はプロテインデータバンク(PDB)に登録されているものを使用し、ミッシング領域をホモロジーモデリングで補完、全体構造を構造最適化して準備した。低分子などとの複合体構造として登録されていないため、いきなり、低分子などの結合サイトがどこなのかの判断でつまずくことになった。ブラインドドッキングで結合サイトを予測するにも既知リガンドがないため難しく、タンパク質構造全体から結合サイトの予測を行った。トップスコアのリガンド結合サイトは複合体としてPDBに登録されていた細胞融合に関与する受容体が結合する部分と一致した。早速、ドッキングサイトを調整し、数万化合物から成るドラッグライブラリを用いてバーチャルスクリーニングを実施した。スコア上位のヒット化合物について結合親和性を予測し、十分に麻疹ウイルスの標的タンパク質に結合でき、宿主の細胞融合関連受容体との結合を阻害できる可能性が示唆された。そこで、スーパーコンピュータを用いてQM/MM構造最適化計算後、二次電子相関MP2レベルでの全系量子化学計算から標準状態での結合自由エネルギーを算出し、十分な結合親和力があるものと考えられた。さらに、ヒット化合物のいくつかについてADMET予測を行ったところ、ドラッグライブラリをスクリーニングして得たヒット化合物ということもあり、良好と判断された。フラグメント分子軌道法によるMP2レベルでのインターフラグメント相互作用解析も実施し、リガンド結合に重要なアミノ酸残基についても知見を得た。ハートリーフックレベルでは相互作用が弱い一方で、MP2レベルでは強い相互作用が得られることから、電子相関項が大きく寄与しているものと推測された。
麻疹特効薬についてインシリコ創薬知見をご希望される場合は分子機能研究所までお問い合わせください。
2026年5月19日
分子機能研究所 辻一徳

